井戸の茶碗

屑屋さん、奮闘する。

【あらすじ】
正直清兵衛とあだ名が付くほどの正直者の屑屋の清兵衛が、裏長屋で浪人の千代田卜斉から古い仏像を二百文で預かりました。これを細川家の若侍、高木作左衛門が三百文で買い取ります。ところが高木がこの仏像を洗ってみると台座の紙が破れ、五十両の小判が出てきます。卜斉の先祖が子孫のために隠しておいた大事なお金のようでした。二人目の正直者の高木は、この小判を売り主に返すようにと清兵衛に託すのですが、この二人に負けないぐらいの三人目の正直者の千代田は「売った仏像から出た小判は、仏像を買った人のものだ」と言って受けとろうとしません。結局、清兵衛が十両、千代田と高木が二十両ずつ受けとるということになります。しかし千代田はただ金をもらうわけにはいかないと、普段から使っている古い茶碗を高木に渡すことにしますが、じつはこの茶碗がくせものなのでした。

【聴きどころ】
古今亭のお家芸である「井戸茶」。清廉潔白な登場人物たちを意識して、肩に力が入ってしまいがちな講談ネタですが、菊之丞師匠は力むことなく、すっきりと仕上げています。登場人物のほとんどが正直者、というのは落語としては、ともすると弱点かもしれませんが、テンポがよくて飽きさせません。物語もシンプルで古典の長講に馴染みがない方にもおすすめの一席です。

【もうひとこと】
屑屋さんが流していた「清正公様」は、加藤清正の肖像画が祀られていた芝白金の覚林寺をいいます。近くには肥後熊本の細川家の中屋敷がありました。人情噺ではあるのですが、白金を舞台に、屋敷の侍と長屋に住む浪人との間を屑屋が大金を持って右往左往、という設定がことに興味深く感じられます。

[収録：2010年2月27日　フジテレビ目玉名人会（東京・台場）]

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