茶の湯

圓生直伝の古典、きっちりと。

【あらすじ】
蔵前の旦那が息子に身代を譲り、小僧の定吉を供に連れて根岸の里に隠居しました。一日中退屈していると、定吉に「何かおやんなさいよ」とせっつかれ、茶の湯をたしなむことに。本当は茶の湯の作法も何も知らないのですが、息子が世間では「十八大通」と呼ばれる通人です。息子に負けるのは悔しいので、小僧の定吉には「小さな頃に教わったから忘れてしまった。茶碗に入れるあの青い粉はなんだっだか」ととぼけていると、小僧の定吉が青黄粉を買ってきます。しかし泡がたたないので椋（ムク）の皮も投入。それでお茶を点てたからたまりません、二人ともお腹をこわしてしまいます。しかし人を呼んで勝手なことを自慢する、茶の湯の愉しさに目覚めてしまった旦那、今度は長屋の店子を呼び出します。やはり茶の湯を知らない店子たちは、メンツのために引っ越しをする騒ぎになりました。

【聞きどころ】
旦那は小僧の定吉相手に通人ぶってみせますが、どうも定吉は旦那の嘘には気が付いていて、わざと鋭いつっこみを入れて旦那を困らせようとしている節があります。この年の差のある二人の微妙な駆け引きが前半の愉快なところです。後半の長屋の騒動では展開がぐっとスピーディになります。店子連中も引っ越しまでしなくても、と思いますが、見栄を張る江戸っ子気質がデフォルメされているのでしょう。円丈師匠が圓生師に教わった36席のひとつということで、きっちりとこの古典噺を仕上げています。先代の三遊亭金馬の名演が有名ですが、金馬も圓生師から教わったとのことです。

【もうひとこと】
噺に出てくる「十八大通」というのは、江戸時代に遊里を中心に贅沢な浪費ぶりを誇った一群の富裕な江戸町人で、十八人とは限らなかったそうですが、おもなメンバーは蔵前の札差（ふださし・旗本、御家人を相手にした高利貸商人のこと）たちだったようです。髪型、衣服などに贅を尽くし「蔵前風」という独特の風俗を生み出し、芸事にも精通しました（『江戸東京学事典』）。椋の皮は石けんの代用品として使われました。

［収録：2010年8月17日　内幸町ホール（東京）］

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