子別れ

文左衛門は乱暴者か？

【あらすじ】
大工の熊さんはかつては酒で身を持ち崩し、それがために別れたくもない妻子と別れてしまいましたが、今はすっかりその酒も断ち、真面目一方で暮らしています。そんな熊さんがある日ばったり生き別れになっていた息子の亀と再会しました。亀に話を聞くと、別れた妻は再婚もせずに息子と二人きりでけなげに暮らしているとのこと。熊さんとしてはよりを戻したい気持ちで一杯なのですが、別れたのは全て自分のせいだという負い目があるために、熊さんの方から復縁を言い出すことは出来ません。それでも亀とこれきり別れ別れになってしまう気にはなれない熊さんは、翌日一緒に鰻を食べに行く約束をして……。

【聴きどころ】
子供に向かって「この野郎、ぶっ殺すぞ」と言ったり、自分の息子を苛めた斎藤さんに密かに復讐を誓うなど、文左衛門師の演じる『子別れ』の熊さんは文左衛門節爆発の乱暴者ではありますが、その一方で限りなく甘く優しい父親でもあります。どちらも文左衛門師の素顔そのままで、その師の地金が熊さんというキャラクターを得て躍動している一席です。

【もうひと言】
饅頭を見ながら涙ぐんでいる熊さんを見た小僧さんが「ことによったらこの人は清正公様の生まれ変わりじゃないか」というくすぐりがこの噺の中に出て来ます。加藤清正が毒饅頭で暗殺されたということが常識であったひと昔前であれば、大いに受けた場面ですが、今では少しわかりにくくなってしまいました。しかし、少々笑いが少なくとも、こういう落語らしいくすぐりを大事にしているというのも、文左衛門師の噺家としての矜恃の一つなのです。

[収録：2009年3月28日　文鳥舎（東京・三鷹）]

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