鏡

「夢丸新江戸噺」優秀賞作品！（解説付き）

【あらすじ】
人がその顔を見ると、つい笑ってしまうほどに不器量な大店の娘おみよ。気だてはいいのですが、その不器量が災いして縁談がありません。心配した旦那に相談された大工のたつじは、弟分の新吉に白羽の矢を立てます。新吉は仕事もできるし男っぷりもいいのですが、四十になった今でも独り身なのです。それというのも十五年前に、家が火事で焼け、その時に母親が顔にやけどを負ったのがきっかけで、心を閉ざし引きこもってしまい、新吉はその面倒をみているからなのです。旦那の心配をよそに、おみよは新吉のところに嫁ぐ決意をします。嫁となり甲斐甲斐しく世話をするおみよのやさしい心根に、母親のかたくなな心もほぐれてくるのでした。くるくると働くうちに、おみよの方も、すっきりと痩せはじめてきました。

【聴きどころ】
「鏡」では不器量な娘おみよが、献身的な働きと心遣いでまわりの人間を幸せにします。それはおみよの心がおおらかに人を包み込む愛情で貫かれているからでしょう。加えて、心は優しいけれど、不器量な娘が実は……という話には、ディズニー映画のようなメルヘンチックな趣もあります。夢丸師匠の明快な口調は、人間の感情の機微を丹念に描き出します。

【もうひと言】
夢丸師匠が「新作古典」の落語台本を募集する意欲的な試み（2001年から）を始めているのはご存じの通り。「鏡」は2006年度の優秀賞作品です（作・渡部敏郎、脚色・本田久作）。他の台本公募とは異なって、夢丸師匠が私財を投じたこの試みには、毎年多くの作品が応募されますが、台本が完成しただけでは落語にはなりません。所作をつけて話を練り込んでいく過程が必要で、場合によってはサゲを書き換えてしまうこともあるとのこと。新しい「古典」作りに賭ける師匠の意気込みが伝わってきます。

[収録：2008年6月18日　お江戸日本橋亭（東京・三越前）]

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