愛宕山

小判めがけて谷底へダイブ！

【あらすじ】
幇間の一八は旦那に連れられて、京の愛宕山に登ることになりました。あんな山のひとつやふたつ朝飯前という一八でしたが、中腹の茶屋に着くころにはもう、へとへとに疲れはててしまいます。山中で土器（かわらけ）投げに興じる旦那は百発百中の腕前。一方の一八は口ばかりでまったく的に当たりません。そのうち旦那は酔狂にも小判を的めがけて投げはじめます。その数三十枚。「拾った者のものだ」という旦那のことばに、一八は傘をかざし、谷底めがけて飛び降りました。無事に降り立った一八は小判を拾い集めます。「三十枚ありました」の叫びに「みんなお前にやるぞ」と旦那。喜ぶ一八でしたが、はたと気づきます。谷から上がる方法がないのです。そこで何を思ったのか、一八はおもむろに着物を脱ぎはじるのでした。

【聴きどころ】
のどかな京の春景色とはうらはらに、山登りする幇間は汗だくです。景気づけの唄もだんだん心細くなっていき、しまいには息もきれぎれ。とうとう尻を押してもらって山に登るしまつです。さらには竹を必死でたわめるときの力の入り具合ときたら、聞き手を力ませずにはおきません。そして最後に待っているのは、あっとおどろく大ジャンプ！　そんな文楽の全身を使っての熱演が、噺のウソを本当らしく仕立てています。

【もうひと言】
ふるくからの上方落語である本作は、上方・江戸の両方で活躍した三代目三遊亭圓馬から文楽に受け継がれました。上方版では「京都の人間は、しみったれだから土器しか投げない」という大阪の幇間の挑発に乗って、旦那が小判を投げる設定になっています。この噺はよほど体力を使うらしく、文楽は体調によっては演ずるのをひかえたといわれています。

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