落語研究室　第14回「妾馬」

笑いも感動も

　立川流という落語会のインディーズにあって、個性と研鑽を競うなかでも、いまや立川流四天王と称される、立川談笑。
ときに、その思いきった古典改作の手法には目を剥くご通家もあるかもしれません。

それでも、そんなボーダーを往還する噺をつくりあげるためには、愛して止まない落語にたいする周到な研究があるはずです。
もちろん、談笑師匠が声高にそんなことを語ることはありません。
いつもチャーミングな高座がわたしたちの前にあるだけです。

「落語研究室」では、そんな談笑師の魅力的な落語の秘密に迫りながら、毎回楽しいおしゃべりが繰り広げられます。
研究員は、談笑師のほかに、年間350回も落語会に足を運ぶという聴き巧者の広瀬和生さんと、三味線の技量とユニークな個性で落語会にひっぱりだこの寄席囃子方の恩田えりさん。
広瀬さんの的を射て軽快な問題提議で、談笑師が大いに語ります。
※毎回締め括りは、えりさんの演奏で名人の出囃子をお楽しみください。



第14回の研究テーマは「妾馬」。
ご承知のとおり、「めかうま」じゃなくて「めかんま」ですね。
おめかけさん、二号さん愛人などの言葉は放送上都合がよろしくないとかで、
「八五郎出世」というようになったという説もあるそうですが、
えり研究員が提出した、それらを表す税務署用語に一同びっくり。

この噺の聴きどころは、やはり、
三太夫がうろたえるほどに職人風情が言いたい放題のところ。
そして、その八五郎の酔ったうえでの本音がしんみり心に響くところ。
人情噺の感動と大らかな笑いも多い、見せどころいっぱいの噺です。

そんな噺だけに大勢の噺家さんがそれぞれに工夫して演じています。
今回も広瀬さんが、さん喬、志の輔、談春、三三の各師匠方の
さまざまに面白い「妾馬」を紹介しています。
とくに談春師匠の噺を再現する広瀬さん、なかなか真に迫ってますよ。

この噺、根底に流れている身分の違いが悲喜こもごもを産みますが、
そこにメスを入れたのが、我らが談笑師の「妾馬改」です。
やんごとなき方のお世継ぎを産んだのは新小岩のキャバクラ嬢。
その兄のクロス職人・タカシが改造車に乗って御所に……。
現代にどう共感を得られる噺にするかが課題という真摯な談笑師は
身分差のリアリティや女性の視点、妹の内面も掘り下げています。
「ともかく、いちばん爆笑できる落語」と広瀬さんも太鼓判。

さてエンディングは、ぐっと胸にくる「妾馬」が寄席でもお馴染みの大ベテラン、
柳家さん喬師匠の出囃子「鞍馬獅子」をお聴きください。



■「立川談笑の落語研究室」は、毎月第2・第4金曜日に配信されます。
第15回の研究テーマは〈泥棒〉です、どうぞおたのしみに！

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立川談笑(たてかわだんしょう)

落語家

1965年、東京都江東区北砂出身。早稲田大学法学部卒業後、92年に立川談志に入門、談生を名乗る。96年、二つ目になり6代目立川談笑を襲名。2005年に真打昇進。06年、国立演芸場の6月上席で、83年の落語協会脱会以後、立川流としては初定席を勤めた。テレビやラジオのレポーターとしても活躍中。代表作といわれる『シャブ浜』など、古典の改作を得意とし、おなじみの定番もただでは済まされぬ爆笑ネタに。独演会は常に完売の人気者である。出囃子は『野球拳』。

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