落語研究室　第5回〈粗忽〉

じっくり粗忽考

　立川流という落語会のインディーズにあって、個性と研鑽を競うなかでも、いまや立川流四天王と称される、立川談笑。
ときに、その思いきった古典改作の手法には目を剥くご通家もあるかもしれません。

それでも、そんなボーダーを往還する噺をつくりあげるためには、愛して止まない落語にたいする周到な研究があるはずです。
もちろん、談笑師匠が声高にそんなことを語ることはありません。
いつもチャーミングな高座がわたしたちの前にあるだけです。

「落語研究室」では、そんな談笑師の魅力的な落語の秘密に迫りながら、毎回楽しいおしゃべりが繰り広げられます。
研究員は、談笑師のほかに、年間350回も落語会に足を運ぶという聴き巧者の広瀬和生さんと、三味線の技量とユニークな個性で落語会にひっぱりだこの寄席囃子方の恩田えりさん。
広瀬さんの的を射て軽快な問題提議で、談笑師が大いに語ります。
※毎回締め括りは、えりさんの演奏で名人の出囃子をお楽しみください。


さて、第4回の研究テーマは、粗忽。うっかり者です。
いまでは死語になりつつある粗忽な人は、落語には大勢登場してきます。
落ち着きゃ一人前なんですが、どうにも思いこみが激しくて、そそっかしい。行く先々で騒動が巻き起こされます。
粗忽者は「マメでそそっかしい人」と「無精でそそっかしい人」に分類されますが、これを描き分けるのが難しいのだそうです。
「そんな奴いねえよ！」と突っ込みを入れたくなるほどの呆れたおっちょこちょいを聴く者に納得させてしまうには、よほどの説得力がなければいけません。
その点、5代目小さんの「盤石さ加減は凄い！」と一同感嘆。

数ある粗忽噺でも「粗忽長屋」はシュールさもぶっとんでいて、常人には思いつかないサゲが待っています。
談笑師は、この噺を長屋に住んでる人をみんな粗忽にしてしまった大胆な構成で演じます。
熊さんのみならず、みんなが粗忽の、粗忽の集団？
サゲも談笑師独特の、そこまでやるかの粗忽の連鎖。
「アレンジしにくい噺をそんなふうに変えたのは談笑さんくらい」（広瀬）

「粗忽の釘」は他愛ない噺だけど、ひたすらボケをかます登場人物に落語らしい笑いが凝縮した面白い噺で、ご本人もけっこう粗忽者だという広瀬さんのお気に入り。
この噺での談笑師の工夫に研究室はきょうもまた笑いの渦に包まれます。

「作りこみようは、まだまだありますよ！」

〆を沸かせたのは、人騒がせだけど、ちょっと可愛い、すごくおかしい、えりさんの粗忽のエピソード。
家元いわく「バカは隣りの火事より怖い」（えりさん、ごめんなさい！）。

本日の出囃子は、落語家では初の人間国宝・5代目柳家小さんの「序の舞」を、恩田えりさんの演奏で。



■「立川談笑の落語研究室」は、毎月第2・第4金曜日に配信されます。
第6回の研究テーマは「子別れ」です、どうぞおたのしみに！

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立川談笑(たてかわだんしょう)

落語家

1965年、東京都江東区北砂出身。早稲田大学法学部卒業後、92年に立川談志に入門、談生を名乗る。96年、二つ目になり6代目立川談笑を襲名。2005年に真打昇進。06年、国立演芸場の6月上席で、83年の落語協会脱会以後、立川流としては初定席を勤めた。テレビやラジオのレポーターとしても活躍中。代表作といわれる『シャブ浜』など、古典の改作を得意とし、おなじみの定番もただでは済まされぬ爆笑ネタに。独演会は常に完売の人気者である。出囃子は『野球拳』。

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