薮入り

我が子の成長はまぶしいよ

【あらすじ】
熊が息子のかめを奉公に出して三年がたちました。明日は正月16日の藪入り。かめが奉公先から初めて帰ってきます。熊は久しぶりに帰ってくる我が子に馳走を食べさせて、あちこち挨拶に連れてまわって…と興奮して寝付けません。とうとう一睡もできぬまま朝を迎えたところに、かめが帰ってきます。「めっきりお寒くなりました。おとっつあん、おっかさんお変わりございませんか」。大人びた挨拶をする息子を見て熊は戸惑うやら、うれしいやら。息子の成長ぶりを喜ぶ夫婦でしたが、かめがお湯に行ったあいだに、財布に十五円という大金が入っているのを見つけました。子供が持つような金額ではありません。ひょっとして……と、いぶかしく思います。

【聴きどころ】
幼い我が子を人様にあずけて一人前にしてもらうのです。里心がつくといって、最初の三年は親元に帰らせなかったといいますから、その間の親の心配は並大抵ではなかったでしょう。いつの世も変わらぬ親子の情をえがいたこの噺。若い噺家さんには難しい噺でしょうが、一之輔さんは直球勝負の熱演。聴く者の心をぐっとつかみます。かめが熊にしかられ、抑えていた感情を爆発させて泣きじゃくるところも聞きどころ。

【もうひと言】
別名「ねずみの懸賞」。もともとはやや下がかったサゲでしたが、明治末期に初代柳家小せんが、当時流行ったペスト流行対策で、政府が菌を媒介するねずみを買い上げたことに引っかけて改作しました。先代の三遊亭金馬が得意としていたのは、周知のところ。藪入りは、正月および盆の16日に奉公人が暇をもらって親元へ帰ることをいいます。「草深い土地へ帰る」という意味があったようです。

[収録：2009年11月17日　お江戸日本橋亭（東京・三越前）]

《携帯電話・スマートフォン（iPhone、Xperia等）、通信機能内蔵タブレット（iPad、GALAPAGOS等）、通信機能内蔵音楽プレーヤー（iPodTouch等）等へは「ダウンロード及び保存」はできません。お手数ですがパソコンでダウンロード後、お手持ちのデバイスへ同期頂き、お楽しみください。》