あくび指南

あくび名人への道は厳しい

【あらすじ】
八五郎は稽古事がしたくて「あくび指南所」にあくびを習いに行くことにしますが、ひとりじゃ行きにくいからと友だちに付き添いを頼みます。じつは八五郎の目当ては、その指南所のお師匠さんとおぼしき女性なのでした。訪ねるとお目当ての女性が出てきて喜んだのもつかの間、じつはその女性は師匠の奥さんで、“けっしんさいちょうそく”と名乗る男が出てきます。憮然とする八五郎「あくびの稽古なんてくだらねえ」と本音が出ますが、お師匠さんは平然として「初心の方は夏のあくびなんてよろしうございますかな」と隅田川の舟の上を再現して「おい船頭さん、舟を上手にやっておくれ。堀からあがって一杯やって……舟もいいが一日乗ってると退屈で退屈で……ふあああ……ならぬわい」と手本をみせます。これを見ていた八五郎は突如として「これだ、俺の求めていたものは！」と「あくび道」に目覚めるのでした。

【聞きどころ】
お金をとってあくびを教えようとする人間と真剣に教わろうとする人間のなんともたわいのない噺です。笑っているうちに体の緊張がほぐれるような、こちらもつられてあくびが出てきそうなのんびりした一席です。一之輔さんは、八五郎があくびに目覚めることなど、独特の工夫とくすぐりをはさみこんでいます。

【もうひとこと】
古くからある噺で、原型になったのは「薩摩のあくび」「仙台のあくび」などを売り歩く「あくびの寄合」という大坂の噺のようです。江戸の小咄には「太平楽指南所」「道楽指南所」などの「指南物」ともいうべきものが多くありました。

[収録：2009年4月15日　お江戸日本橋亭（東京・三越前）]

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