宿屋の仇討ち

イロゴト自慢が命取り

【あらすじ】
神奈川の宿場に万事世話九郎と名乗る、旅のお侍がやってきます。お侍は小田原の宿ではうるさくて眠れなかったらしく、宿屋の伊八に「静かな部屋でゆっくり休みたい」と告げました。ところがお侍のとなりの部屋に泊まったのが、上方帰りの江戸っ子三人組。これがうるさいのなんの、芸者をあげて大騒ぎをはじめてしまいます。さっそく伊八を呼んで苦情をいうお侍。しかし静かになるのはいっときだけで、江戸っ子三人組は相撲をとったり、色事の話で盛り上がったりと、埒が明きません。ところがこの色事の話を聞いた途端、お侍の様子が変わります。江戸っ子三人組のひとり、「ふたりを殺して三百両を手に入れた」という源兵衛こそ、長年探し求めた仇だというのです。

【聴きどころ】
にぎやかで騒がしい江戸っ子と、怒りをぐっと押し殺したお侍のコントラストがなんとも鮮やかな一席です。江戸っ子の底抜けの馬鹿騒ぎはパーッとはじける遊雀師の本領発揮の場面。そこにからめて「駆け落ちものが夜っぴて話をするやら親子の巡礼が泣くやら……」というお侍の苦言のリピートが、徐々に笑いを盛り上げていきます。また、慇懃だったはずのお侍が、一夜明けるとびっくりするほどさわやかに変貌している場面も聞き逃せません。サゲに至る物語も何段にもひねられていて、たいへんよくできた噺です。

【もうひと言】
舞台となっている神奈川宿は、現在の横浜市神奈川区神奈川本町のあたりにありました。万事世話九郎が前日泊まった小田原の宿からは距離にして五十数キロもあり、いまの時代からすれば、世話九郎はかなりの健脚であったことがうかがえます。

[収録：2008年10月18日　文鳥舎（東京・三鷹）]

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