盃の殿様

恋する殿様、旅する盃

【あらすじ】
ある殿様、参勤交代で江戸に来ますが、郷里の九州と違って気苦労も多く、気うつの病にかかってしまいます。ふせった枕元で茶坊主の珍斎に花魁（おいらん）の錦絵を見せられ、その美しさに魅せられた殿様、さっそく吉原見物に出掛けます。花魁行列で花扇を見初め、毎日通い詰めるようになってしまいました。すっかり気うつも取れた殿様をよそに、殿様が吉原通いなんて、問題になりはしないかと家来たちが心配していたところ、参勤交代で郷里に帰ることに。淋しいのは殿様です。花扇を偲んで、なんと江戸と九州で盃のやりとりをしようと思いつきました。

【聴きどころ】
憂いのある？顔立ちでけだるい雰囲気の喜多八師匠が、ノイローゼ気味の殿様を演じるのですから、はまらないわけはありません。天下泰平の世ならではの殿様ののんびりぶりを師匠が面白可笑しく演じてみせます。九州から江戸の吉原まで、殿様の盃を持ってひた走る、早足の家来の道のりを言い立てるところも、聞きどころのひとつ。オチも洒落ています。

【もうひと言】
大名の太夫狂いは、厳しい禁令が出て以来下火になりましたが、それ以後も隠れ遊びをする大名は絶えなかったといいます。謹慎処分になった殿様もいたそうです。原話ははっきりしませんが、遠隔地で酒を酌み交わすという、類似の趣向に「拝領の大盃」（「はなし蔵」中巻）があります。大名噺を得意にしていた二代目柳家小さんの速記（「殿様の廓通ひ」）を参考にして、戦後、六代目三遊亭円生が得意としました。

[収録：2009年11月17日　お江戸日本橋亭（東京・三越前）]

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