のめる

つまらなければ、一杯のめる。（解説付き）

【あらすじ】
八公の口癖はなにかにつけ「一杯のめる」。一方、友だちの半公は「つまらない」が口癖です。お互いに口癖を言ったら一円払うという約束をします。粗忽者の八公は、用心深い半公より先にうっかり口癖を言って一円払うのは面白くないので、町内のご隠居を訪ねて半公に口癖を言わせる手はないかと相談します。隠居の考え出した策は、半公に「田舎のおばさんがたくあん大根を百本送ってきたが、うちには四斗樽がない。醤油樽に大根百本つまろうかね？」と聞いて「つまらない」と言わせるというもの。八公はさっそく半公のうちに出かけます。八公の熱演ぶりにつられて半公はあやうく「つまらない」と言いそうになりますがすんでのところで気がついて、八公は逆に「一杯のめる」と言わされて一円まきあげられてしまいます。失敗した八公はまたご隠居に泣きつきます。今度は将棋好きの半公を引っかけようとする策です。

【聴きどころ】
口癖を扱った噺ですが、登場人物のキャラが明確になってこそ噺が活きてきます。主人公の八公は冷静沈着な半公に打ち勝つために奮闘しますが、根が単純なのでご隠居に教えられた策略もなかなか理解できませんし、結局は自分の粗忽ぶりがあだとなって負けてしまいます。けれどもそんな八公は可愛げがあり、人を騙すことができない性分は江戸っ子の典型。ついついご隠居も大人げなく加担してしまいます。ちょっとニヒルで斜に構えたような半公は文左衛門師匠にぴったり。

【もうひと言】
上方では桂米朝が「二人癖」の題でよく演じていました。テレビドラマ「ちりとてちん」にも使われたことは記憶に新しいところ（主人公たちが賭をして貯金するというエピソード）。「なくて七癖」というように、癖を扱った噺は多く、四人同士が騙しあいをしようとする「四人癖」という、複雑な噺もあります。

[収録：2009年1月20日　お江戸日本橋亭（東京・三越前）]

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