睨み返し

時給2円でギロッとにらむ（落語随談付き）

【あらすじ】
大晦日。金の工面がつかない男のもとに、借金取りがやってきます。「勘定をもらうまでここを動かない」という薪屋はなんとか追い払いますが、借金取りは薪屋だけではありません。困っているところに聞こえてきたのが「借金の言い訳ー」というふしぎな売り声。渡りに舟と呼び止めると、この男、時間決めで借金取りを追い払ってくれるというのです。これはありがたいと、なんとか質屋で二円の金を作って、さっそくお願いすることになりました。まず現れたのが米屋。男は煙草を吸いながらただにらみつけるだけで、みごと米屋を追い払います。次に現れた魚屋にいたっては、ほんのひとにらみで追い返してしまいます。ところが次に現れた借金取りがなかなかの強敵。凄みをきかせて返済をせまるのでした。

【聴きどころ】
大晦日は掛け取りのぎりぎりの正念場。借りている方も必死なら、借金取りだって必死です。そんな歳末のふところさびしい時期、借金取りをひとにらみで追い払ってくれるという、庶民の願望を体現した正義の味方の活躍に、溜飲が下がる一席です。そしてなんといっても表情で見せる「睨み返し」は、喜多八師にはうってつけの噺。普段は憂いを湛えた彫りの深いお顔が、すさまじい表情に変貌し、借金取りをみごと追い払うシーンはまさに圧巻です。喜多八師の顔を想像しながらお楽しみください。

【もうひと言】
大晦日の窮乏を描いた落語は数多く、本作のほかにも「掛取万歳」「尻餅」「言訳座頭」などがあります。ツケがきくのは米屋など近所の生活必需品の店でしたから、ただ断われば良いというわけでもなく、大晦日の払いは江戸の庶民にとって切実な問題でした。

[収録：2007年12月11日　文鳥舎（東京・三鷹）]

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