花見酒

花に浮かれてバブル崩壊

【あらすじ】
花見に酒はつきもの。ならば花見客に酒を売ってもうけてやろうと、ふたりの男はたくらみます。酒屋で二両の酒を買い、樽とかつぎ棒、さらには一貫の金を借りて、花見の名所、向島めざして出発しました。道の途中でひとりが空腹をうったえます。借りた一貫で芋を食べるようにいう相棒に答えていうには「それは無駄だ」。一貫で自分たちの酒を買い、ふたりで分け合って飲めば無駄がないと提案します。なるほどとばかり、ひとりがコップに注いだ酒を飲みますが、半分のはずが全部飲んでしまいました。仕方なくもうひとりが手元の一貫を払ってまた一杯酒を飲みます。それを見たひとりがまた飲みたくなって一杯買います。一貫はふたりのあいだを行ったり来たり。そうこうするうち、ついに酒は売りきれてしまいました。

【聴きどころ】
六代目春風亭柳橋は、戦前から活躍した落語家で、戦後は日本芸術協会（落語芸術協会の前身）の会長を40年以上にわたって務めた、落語会の大御所でした。その実力は抜群で、たとえば酒を飲みはじめたふたりが、しだいに酔っぱらって正体をなくしていく描写からも、なみなみならぬ力量が伝わってきます。その語り口はおっとりとしてしますが、いざヤマ場となればテンポは緩急自在。花見の浮かれた雰囲気が、手に取るように伝わってきます。

【もうひと言】
酔っ払いの滑稽ばなしとあなどるなかれ。本作は、じつは笠信太郎氏によって提唱された「花見酒の経済」という経済用語の語源ともなった落語なのです。登場人物ふたりのあいだで金はひんぱんに行き来していますが、それは実体のない虚構の売り上げ。まさにバブル経済のモデルともいえる、ちょっと空恐ろしい落語です。

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