夢一夜

死を笑いのめせ

【あらすじ】
どこでもいいから明るくて陽気な酒場に行けと運転手に命じたタクシーの客は、実は日本で三本の指に入る末期ガン患者でした。彼は病院で死にたくなくて、ベッドを抜け出してきたのです。「どれだけ金を並べられてもそんなことをするのは嫌だ」と言う運転手に「だったら金を並べてやろうじゃないか」と対抗する患者。彼は人生最後の楽しみを極めるため、金の力にものを言わせて……。

【聴きどころ】
最近、声を出して笑ったことがないという人、ぜひお聞き下さい。円丈師が創作した新作落語の幅はとてつもなく広く、飛び抜けてシュールなものから人情味あふれる涙ほろり物語までさまざまですが、この『夢一夜』はそんな円丈落語の中でも極めつけの爆笑譚です。これを聞いて笑えないとすれば、よほど体調が悪いか、落語に向いていないか、日本語がわからないかのどれかでしょう。

【もうひと言】
円丈師は還暦を迎えた頃から口癖のように年をとった自分を嘆いていますが、実際には年齢を重ねれば重ねるほど新たに作る落語の切っ先は鋭くなっていきます。この作品は2004年初演と言いますから、まさに円丈師が還暦を迎えた年の作品です。それなのに何という新しさ。『夢一夜』を聞いていると一度でいいから末期ガンになってみたい……とはさすがに思いませんが、死に対して少しだけ客観的になれる自分を発見できるかもしれません。

[収録：2009年7月4日　にぎわい座（横浜・桜木町）]

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