道灌

「実の一つだになきぞ悲しき」の意味は？

【あらすじ】
仕事が中途半端な時間に終わってしまった八五郎は、暇つぶしにと横町の御隠居の家へ出かけました。御隠居はいつものように八五郎を歓待して、面白い話を聞かせてくれます。昔、太田道灌公という人が雨に降られて困っている時、少女に雨具を所望すると、少女は雨具の代わりに山吹の花をさしだしました。これは「七重八重花は咲けども山吹の実の一つだになきぞ悲しき」という古い歌をもじった雨具の断りの文句とのこと。この話を聞いた八五郎は、早速自分もその真似をしてやろうと隠居からその歌を教わって家に帰ると、折良く雨が降ってきて……。

【聴きどころ】
ひと昔前まで寄席は庶民が教養を学ぶ場とも言われていました。人々は寄席にやって来て落語を聞き、さまざまな雑学を学んだのです。この噺に出て来る「七重八重……」の歌は、「実の一つだになき」という下の句を「簑一つだに無い」という言葉にかけて、「雨具をお貸ししたくても簑すら持っていません」という婉曲な断りの文句でした。昔の人は落語を聞きながら、こうしたちょっとした知識も学んでいたのです。

【もうひと言】
「道灌」は東京の前座噺の中でももっとも有名なものの一つです。前座噺とは噺家に入門したての前座が習う初歩の噺ですが、だからと言ってたやすく演じられるというわけではありません。書道における「一」という文字のように、一見シンプルに見えるものほど難しいのです。扇遊師はこの「道灌」で見事な「一」の字を書いています。

[収録：2009年5月7日　横浜にぎわい座（横浜市中区）]

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