しの字嫌い

言わぬなら、言わせてみせようその一字　（落語随談付き）

【あらすじ】
ご隠居、使用人の清蔵の屁理屈に手を焼いています。「火を熾（おこ）せ」と言えば「それは間違いだ。炭を火に熾すだよ。火を熾したら灰になる」と用を言いつけられるたびに屁理屈で口ごたえされる始末。なんとかひと泡吹かせようと考えたご隠居、太閤秀吉が家臣の曽呂利新左衛門を困らせるのに「しり」という言葉を禁止した逸話を思いだし、清蔵に「し」の字を使うことを禁じます。清蔵はご隠居も使ったらどうするだ、と引き下がりません。そこでご隠居はお前が「し」を使ったら給金はやらない、そのかわり私が使ったらお前の望むものをなんでもやる、と約束。ご隠居はなんとか「し」を言わせようと、いろいろと画策しますが、二人の「し」の 字をめぐる攻防は白熱するばかり。

【聴きどころ】
足が痺れて「ああ、“よ”びれが切れた」。「四貫四百四十四文」の銭を数えて「“よん”かん“よん”ひゃく“よん”じゅう“よ”もん」……二人がしぶとく言葉を選んで切り抜けるところが笑いを誘う一席。「し」の字を避けて言葉を紡ぐところは聞いている方もハラハラとして、引き込まれます。屁理屈の掛け合いが三三師匠の生まじめな口調とあいまっておかしみを誘います。

【もうひと言】
もとは古い噺で、天明年間（18世紀末）からある噺のようです。曽呂利新左衛門のエピソードは17世紀の安楽庵策伝著『醒睡笑』にあります。新左衛門は面白い話で秀吉のご機嫌を取った「御伽衆」で、落語家の先祖といわれることもある人物です。

〔収録：2007年8月10日　東京・Again〕

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