怪談のりうつり

孤独なサラリーマンをめぐる荒唐無稽なエレジー　（解説付き）

【あらすじ】
58歳の川崎さんはうだつの上がらない会社員、もはや窓際で誰からも相手にされません。ある日川崎さんは部下の長谷川くんを無理やり飲みに誘います。川崎さんはいやいやついて来た長谷川くんを相手にさえない話ばかりしますが、急に宝物を見せてやるといいます。若かりし頃の川崎さんと親友の男女ふたりが写っている一枚の写真でした。その男女は今の会社の専務と専務夫人だといいます。川崎さんは自嘲的な笑いをもらしながら、もうひとつの宝物を取り出しました。それは、昔３人でピクニックに行ったとき、今の専務夫人のお弁当から分けてもらった“がんもどき”の破片をパウチしたものでした。専務夫人は川崎さんの憧れの女性だったのです。その後長谷川くんも早々に帰り、ひとり寂しく居酒屋を出た川崎さんは夜風にあたります。すると「ちょっといいですか？」いきなり川崎さんの前に現れたのは…。

【聴きどころ】
喬太郎師は巧みな話術で登場人物たちの個性を明確に演じ分けていくので、あたかも劇を観ているようです。特に川崎さんの強烈なキャラクター作りは、鬱陶しさや気持ち悪さを爆笑に転化させると同時に、彼に敗残兵のような悲哀感をも漂わせるので聴く者の心に何事か迫ってくるものがあります。

【ひと言】
あらためて喬太郎師の芸の力に感服しつつ、アナーキーなストーリー展開に驚かされます。本来はもう少し長い噺なのですが、三遊亭円朝ふうにうまく収められているので、かえってひとつ噺としての満足感を得ることができます。

[収録：2007年8月30日　お江戸日本橋亭]

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