心眼

見えないからこそ、見えるもの

【あらすじ】
あんまの梅喜が疲れ切って仕事から帰ってきました。顔色が悪いので女房のお竹が心配して問いただすと、梅喜は泣きだしてしまいます。実の弟から目が見えないことをばかにされ「無駄飯喰らい」とののしられたというのです。お竹は「一生懸命信心して目を治してもらいましょう」となぐさめるのでした。薬師さまに日参すること二十一日、上総屋の旦那に声をかけられたとき、ついに梅喜の目が開きます。美しい芸者の姿を目にして梅喜は喜びますが、同時に「人三化け七」よりもっとひどいという、女房の器量の悪さを知らされてしまいます。そんなおりに出会ったのが芸者の小春。ふたりで酒を酌み交わすうち、小春は梅喜に惚れていることを告げるのです。梅喜は酒の勢いで、お竹を追いだして小春と夫婦になる約束をしてしまいます。しかしそこへ現れたのは、ほかならぬ女房のお竹だったのです。

【聴きどころ】
三遊亭圓朝晩年の作で、文楽は談洲楼燕枝からこの噺を受け継いだといわれています。文楽は圓朝のオリジナルにさらに磨きをかけ、「心眼」といえば文楽のものといってもよいくらいにまでこの噺を極めました。前段の夫婦の絆から後段に描かれる人間の弱さ、そしてサゲの「寝ているうちだけ、よぉく見える」まで、良質の文学作品を読むかのような、深みあるストーリーが堪能できる作品です。

【もうひと言】
圓朝は三味線弾き唄いの音曲師、三遊亭圓丸という目の見えない弟子の体験談をもとにこの噺を作ったといわれています。この圓丸は横浜に住んでいたということですが、噺の中でも主人公の梅喜は横浜から浅草まで汽車にも乗らずにあるいて帰ったことになっています。直線距離でも 30km以上ある距離を盲人がひとりで歩いたということの重みが、梅喜の死ぬほどのくやしさを物語っています。

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