御神酒徳利

鯉昇師匠の風味、とことん。

【あらすじ】
馬喰町二丁目に刈豆屋吉左衛門という旅籠（はたご）があり、ご先祖が将軍家から賜った葵の御紋入りのお徳利を家宝として大切にしていました。さて暮れの大掃除、二番番頭の善六はそのお徳利が台所に無造作に置かれているのを見つけ、盗まれでもしたら大変と水瓶に隠してそのまま忘れてしまいます。大掃除は終わりましたが、お徳利が紛失したという災難に旦那は寝込んでしまいます。通い番頭の善六は家に帰ってようやく自分が水瓶に入れたことを思い出しますが、今さら言い出せません。女房の思いつきで、一生のうち三度だけ「そろばん占い」で何でも当てることができるとでたらめを言って、お徳利を見つけ出してみせます。ところが、この日刈豆屋に泊まっていた大坂今橋の鴻池善右衛門の支配人がこれを聞いて、鴻池家の娘が原因不明の病で寝込んでいるので、善六に診てもらいたいとのこと。いんちき占いの化けの皮がはがれるのを恐れた善六でしたが、しぶしぶ大坂へ。その途中、神奈川宿で事件が起こり、犯人探しのために善六の登場となりますが……もとより占いなんて嘘っぱちです。

【聞きどころ】
ちょっとした機転がきっかけで、どんどん幸運が舞い込んでくるという、おめでたい噺。江戸から大坂までの旅の終わりはこの上ないハッピーエンド。スケールの大きな気持ちのいい噺です。善六の描き方が一つの聞きどころです。いんちき占いでみんなを騙す調子の良さもあるのですが、根が善人なので、ばれないかとびくびくしています。ピンチを迎えてうろたえる人物を演じると抱腹絶倒の鯉昇師匠の芸風はまさにこの善六にぴったり。

【もうひとこと】
六代目三遊亭圓生が昭和天皇の前で披露したことでも知られる大ネタです。柳家でも上方落語から移植した「占い八百屋」という題で高座にかけることがありますが、この八百屋さんはなんと途中で逃げ出してしまい、大坂まで行き着きません。同様の演目に鼻が利いて八百屋が出世する「出世の鼻」という噺もあります（これが「御神酒徳利」の原型という説も）。

[収録：2009年4月15日　お江戸日本橋亭（東京・三越前）]

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