片棒（落語随談付き）

“どケチ”の真髄、聴かせましょう

あらすじ】
爪に火をともして大身代を築いた赤螺屋吝兵衛（あかにしやけちべえ）さん、三人の息子のうちだれに身代を譲ろうかと悩みます。そこで、父親の葬式の出し方を聞いて決めることにしました。総領の金太郎は、金に糸目をつけず盛大な葬式にするといい、通夜は二晩、本葬も本願寺か増上寺、棺は総白檀、会葬者3000人は一流の料理でもてなし、土産から車代まで出しましょう、と。それじゃ身代が潰れちまうと吝兵衛さんが言うと、金太郎は「借金をしてでも……」。次男の銀次郎は色っぽい葬式にしたいとのこと。弔い行列の先頭は刺子半纏の頭（かしら）連中の木遣（きやり）で、新橋・芳町・柳橋の芸者の手古舞と続き、地味な着物に紺の前掛け、因業な顔をして算盤を持っている吝兵衛さんの人形の山車が出ます。そのまわりを神田囃子がテケテンテン、ヤ、テンスケテンテン、チヒーリチヒーリ、ピリ、ドンドン……「馬鹿野郎！」吝兵衛さんはかんかんになってしまいました。どいつもこいつも道楽息子だと嘆いているところへ、三男の鉄三郎が葬式は簡素に済ませるというので、吝兵衛さんは大喜び。それを聞いてみると父親以上、想像を絶するどケチぶりで……。

【聴きどころ】
能天気な息子たちのはしゃぎっぷり、とくに銀次郎が神田囃子を擬音でまくし立てるくだりは爆笑ものです。喜多八師は弁舌滑らかに一気に聴かせてくれますが、重箱の細工や風呂敷の生地、頭や芸者連中の出立ちなど、各所の描写に考証に基づいたディテールが施されていて、江戸の粋を感じることができるでしょう。

【もうひと言】
“赤螺”とは海にいる貝で、蓋が閉まるとなかなか開かないことから、一度握ったものは離さないケチな人を指す代名詞となりました。「片棒」と同類の噺に「味噌蔵」や「位牌屋」があります。演者によっては、赤螺屋吝兵衛をしわい屋吝右衛門とする場合もあります。

〔収録：2007年2月17日　東京・文鳥舎〕　

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