落語研究室　第6回「子別れ」

あざとくならずに子供を描く　

　立川流という落語会のインディーズにあって、個性と研鑽を競うなかでも、いまや立川流四天王と称される、立川談笑。
ときに、その思いきった古典改作の手法には目を剥くご通家もあるかもしれません。

それでも、そんなボーダーを往還する噺をつくりあげるためには、愛して止まない落語にたいする周到な研究があるはずです。
もちろん、談笑師匠が声高にそんなことを語ることはありません。
いつもチャーミングな高座がわたしたちの前にあるだけです。

「落語研究室」では、そんな談笑師の魅力的な落語の秘密に迫りながら、毎回楽しいおしゃべりが繰り広げられます。
研究員は、談笑師のほかに、年間350回も落語会に足を運ぶという聴き巧者の広瀬和生さんと、三味線の技量とユニークな個性で落語会にひっぱりだこの寄席囃子方の恩田えりさん。
広瀬さんの的を射て軽快な問題提議で、談笑師が大いに語ります。
※毎回締め括りは、えりさんの演奏で名人の出囃子をお楽しみください。



さて、第6回の研究テーマは「子別れ」。
もともとは柳派の初代春風亭柳枝の創作落語であり、
ワッと笑わせもし、グッと泣かせもする人情噺の大ネタです。
上中下の三部構成ですが、いまでは上の「強飯の女郎買い」を演る人は少なく、中の「子別れ」と下の「子は鎹」を構成して演じられることが多いようです。

腕はいいけれども酒乱だった大工の熊五郎は、よくできた妻と息子を追い出して吉原の女郎を家に引き込みます。
それから三年後、女と別れて改心した熊は、木場に向かう往来で別れた息子の亀と再会。それをきっかけに別れた夫婦がよりを戻すという噺。

談笑版「子別れ」では、時代は昭和30～40年代、熊五郎は腕のいい鉄骨鳶で、サンシャイン60の建設中です。
別れた父親を慕う亀の、子供目線で作りなおされたノスタルジックな噺になっています。
また、古典落語では完全な男目線で描かれていて、ある種ファンタジーとも言えるような復縁が成立していますが、談笑版では、現代の自立して生きる女性をも納得させる感性を大切にしています。
それだけに、従来の在り方とは違う、リアルで切ないものになっているんですね。
広瀬さんは、談笑師の幻の禁演落語「シャブ浜」に、「芝浜」のみならず、「子別れ」の強いエッセンスを感じたと指摘します。
「別れの原因となった自分のダメぶりに男が直面するからね」（談笑）

深い溝を乗り越えてヨリを戻すほどの「子は鎹」具合。
子供の描き方がポイントのようです。

エンディングは、「子別れ」中の部分が、若き広瀬さんの心をかき乱したという、柳家小三治師匠の出囃子「二上がり鞨鼓」を、恩田えりさんの演奏で。



■「立川談笑の落語研究室」は、毎月第2・第4金曜日に配信されます。
第7回の研究テーマは「花見」です、どうぞおたのしみに！

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立川談笑(たてかわだんしょう)

落語家

1965年、東京都江東区北砂出身。早稲田大学法学部卒業後、92年に立川談志に入門、談生を名乗る。96年、二つ目になり6代目立川談笑を襲名。2005年に真打昇進。06年、国立演芸場の6月上席で、83年の落語協会脱会以後、立川流としては初定席を勤めた。テレビやラジオのレポーターとしても活躍中。代表作といわれる『シャブ浜』など、古典の改作を得意とし、おなじみの定番もただでは済まされぬ爆笑ネタに。独演会は常に完売の人気者である。出囃子は『野球拳』。

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