芝浜

財布は夢で酒は現実？

【あらすじ】
魚屋の魚勝は仕事もしないで酒を飲んでばかり。ある日女房に仕事に行くように促され、しぶしぶ魚河岸へと出かけます。ところが時間が早すぎて、魚河岸はまだ開いておりません。しかたなく浜で暇をつぶしていると、海のなかで財布を見つけました。家に帰り中身の金を数えてみたところ、なんと四十二両もの大金が入っていました。これで贅沢な暮らしが出来るとばかりに酒をあおる魚勝。しかし、目覚めると肝心の財布が見あたりません。女房が言うには「夢を見たのよ」。おのれの愚かさに気づいた魚勝は酒を断ち、まじめに働きはじめました。その甲斐あって店を開けるまでになったある年の瀬、女房が魚勝に三年前の秘密を打ち明けるのでした。　

【聴きどころ】
50分にも及ぶ大ネタを中だるみなく聞かせる、文左衛門師の落語力が存分に発揮された一席。師は太い声と自慢の表現力で、魚勝の荒っぽいキャラクターから女房の繊細な心の動きまで、みごとに演じきっています。ことに夢であることを信じさせようとする女房と、夢であるはずがないとなかなか納得しない魚勝の攻防のシーンでは、じりじりするような心理戦が堪能できます。女房は、強情を張る魚勝が絶望に転落する瞬間をとらえ、みごと改心へと導きます。女房の内助の功がきわまった一瞬を、なにとぞお聞き逃しなく。

【もうひと言】
年の瀬によく演じられる「芝浜」ですが、今回の収録は夏の日の文鳥舎での口演でした。じつは長年親しまれてきた文鳥舎が惜しまれつつ閉店。文左衛門師の落語会「考える文左衛門」が文鳥舎で開かれるのもこの日が最後ということになったのです。そういったわけで、季節は夏でも「芝浜」は場にふさわしい一席なのでした。

[収録：2009年7月25日　文鳥舎（東京・三鷹）]

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