文違い

本当の色男はだれだ？

【あらすじ】
新宿の遊女お杉は、苦労ばかりさせられる義理の父親にせびられているからと、なじみ客の半七に二十両の借金を頼みますが、半七は五両しか用意することができません。その一方、お杉は別の部屋で田舎者の角蔵に、母親が患っていると言って薬代の十五両を無心します。角蔵は馬を買う金なのだと渋りますが、お杉は角蔵を巧みにあしらって十五両を出させます。ところが、ふたりの男から合わせて二十両をせしめたお杉が別室に待たせていたのは、実は父親でも母親でもありませんでした。

【聴きどころ】
その昔、遊女は客に金を出させるため、手練手管を使って「俺こそ本当の間夫（情人）だ」と思い込ませることに腐心しました。半七も角蔵もすっかりお杉の間夫気取りです。お杉の方でも客の格付けがあって、半七、角蔵、本命の男ではそれぞれに態度が変わる、その描き分けが難しいところ。萬窓師匠がじっくりと丁寧に演じてみせています。師匠演じるお杉は、一見悪女ですが、本当に好きな男に貢ぐための一途さがあり、憎めません。

【もうひと言】
現在の新宿は、もと内藤新宿といって「江戸の四宿（ししゅく）」の一つでした。他の三宿は品川宿、千住宿、板橋宿です。それぞれ甲州街道、東海道、奥州・日光街道、中山道における江戸からの第一宿にあたりました。当然のごとく、遊女がいます。四宿の遊女は幕府の準公認で、飯盛女（めしもりおんな）と呼ばれました。格式張らない、ざっくばらんなのが魅力であったようです。内藤新宿は近郊の農村との商売の関わりも深かったようで、この噺に登場する角蔵はそれを反映しているのでしょう。

[収録：2009年5月21日　あうるすぽっとT（東京・東池袋）]

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