死なない男

「今」を切り取るミステリー（解説付き）

【あらすじ】
金に困っている男が、最近事業が成功して羽振りが良くなったと評判の知人の田中に金を借りに行きます。大して親しくもないので、「あのさあ、いい話があるんだよ……」と遠慮がちに切り出すと、田中は警戒感を露わにします。「金に目を付けていろんな奴が話をもってくるけど、俺、そういうのみんな断ってんだよ」と、いきなり出鼻をくじかれてしまいます。男がくいさがるととりあえずマンションの部屋に入れてくれました。そのあまりの豪華さに肝をつぶしながらも金を貸してくれと頭をさげますが、さんざん嫌味を言われたあげくに、結局断られてしまいます。逆上した男はたまたま手元にあった暖炉の灰かき棒で田中をなぐって殺してしまいました。男は死体を処理しようと首を切り落としますが、なんとその首がしゃべり始めます。「明日プレゼンがあるのに、どうするんだよ！」

【聴きどころ】
貧乏人VS金持ちの会話が面白可笑しくデフォルメされていますが、その一方で現今の世相を反映してか、リアルです。しん平さんの喋りっぷりが陽性なので、暗くはなりませんが、男が殺人に及ぶシーンでは思わず息を呑みます。後半、仕事人間である田中が「首」だけになって会社に出社したときの同僚たちの動揺ぶりには笑わせられます。ところが首一つで仕事をやり遂げようとする田中には、厳しい現実が待っていました。

【もうひと言】
「首」だけになって生きている……ブラックでシュールです。古典でも、自分の斬られた首を持って歩く「首提灯」、また上半身と下半身が別々に奉公する「胴斬り」などナンセンスな噺もありますが、この「死なない男」はけっこうシニカルでシビア。ミステリーかホラー小説のような味わいを持った新作落語です。

[収録：2008年11月8日　関交協ハーモニックホール（東京・西新宿）]

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