藁人形

怖くておかしい志ん生の怪談噺

【あらすじ】
願人坊主の西念が千住の小塚ッ原に帰ってくると、女郎屋で板頭を張っているお熊に呼び止められます。お熊は西念に、自分は神田小川町の糠問屋の娘で、近所の男と江戸を出奔して、結局ここに身を沈めることになったと身の上話をし、西念が死んだ父親に似ていると言います。すっかりお熊を信用した西念は、大事な40両をお熊に貸してやったのですが、お熊の目的はお金をだましとることだけ。あとで薬代を借りに行くとお熊はけんもほろろで、西念は若い衆にひどい目に遭わされました。お熊を恨んだ西念、そのまま家にこもりきりとなり、長屋の連中も心配しますが、へんな匂いも漏れてくるし気味悪がって覗こうとしません。そこに訪ねて来たおいの甚吉、中に入ると、西念は具合悪そうに床に伏せており、鍋の中を決して見ないようにといって厠に立ちます。見るなといわれると見たくなるのが人情、甚吉はそっと鍋のフタを開けてみますが……。

【聴きどころ】
願人坊主、刑場跡地コツ（小塚原）の遊女街と、怪談噺の舞台装置としては文句なし。女郎屋で板頭（売り上げトップ）を張るお熊の不人情な強欲さと、西念の執念深い恨みがよく描かれた噺ですが、志ん生師の人物からかもし出される独特のおかし味が後味の悪さを残しません。とくに長屋連中のくすぐり部分は志ん生師の真骨頂で、怪談噺であることを忘れて笑ってしまいます。

【もうひと言】
志ん生師が比較的よく演じましたが、林家彦六師も得意にしていました。サゲでもわかるように本来落語的な噺なのですが、彦六師の噺はまさに背筋がゾクッとくるような怪談噺ふうで、現在はお弟子さんの林家正雀師に受け継がれています。

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