火事息子

かすかな苦みの含まれる親子の情愛

【あらすじ】
火事と喧嘩は江戸の華とは言うものの、人様の持ち物を預かっている質屋にとって火事ほど怖いものはありません。そこで火事が起きると何をさておいても、質草をしまってある蔵を守らねばならないのですが、あいにくこの質屋の蔵には穴が開いており、そこから火が入ると大変なことになってしまいます。そこで番頭が馴れぬ手つきで穴に目塗りをすることになったのですが、何しろはしご段の一番上という高いところでの作業ですから、高所恐怖症の番頭にそんな器用なことが出来るはずもありません。番頭が右往左往していると、はるか彼方から臥煙と呼ばれる火消しがやって来て、番頭の手助けをしてくれます。と見ると、この臥煙、今では勘当の身となったこの店の一人息子でした。そこで番頭は早速大旦那とこの若旦那を引き合わせ……。

【聴きどころ】
落語には『子別れ』『藪入り』など親子の情愛を描いた作品が多々ありますが、その中でもこの『火事息子』は傑出した作品です。ほとんどの噺が完全なハッピーエンドで終わるのに対して、『火事息子』だけは親子が互いに愛し合いながらも、決して元の家族には戻れないことを承知の上で親は子を思い、子は親を思います。そんなかすかな苦みの含まれた哀愁漂う親子の噺です。

【もうひと言】
『火事息子』は『芝浜』で有名な三代目桂三木助が得意としたネタです。その演劇的・映画的な演出は多くの追随者を生みましたが、喜多八師は三木助とはまるで違う、言ってみれば落語的な演出でこの『火事息子』を演じています。三木助が『火事息子』を芸術にしたのであれば、喜多八師は『火事息子』を再び芸に戻した、と言えるでしょう。

[収録：2008年11月18日　鳥越落語会（東京・浅草橋）]

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