うなぎの幇間

悲しき幇間、客にぬらりと逃げられた！

【あらすじ】
さっぱり客にありつけない幇間の一八。みやげをもってお得意回りをしても、みやげだけとられてしまう始末です。そんな折り、往来で見かけたのはでっぷり太った旦那。どこかで会ったことのある人なのですが、どこの誰かを思い出せません。とりあえず声をかけると「うなぎでも食うか」とうれしい言葉。さっそくふたりでうなぎ屋へと向かいます。口先三寸で褒めちぎるのが幇間の習性でもあるかのように、まずいうなぎを褒めちぎる一八。旦那にも気に入られ、してやったりの一八でしたが、その旦那がはばかりに行ったきり戻ってきません。聞けばすでに帰ったとのこと。ご祝儀がないのはもちろん、勘定も払わずに食い逃げされてしまったのでした。だまされたと知った一八は、意気消沈。仕方なく勘定を払って店を出ようとしますが、履物がありません。なんと草履まで履き逃げされてしまったのです。

【聴きどころ】
景気の良い褒め言葉をぽんぽんと繰り出す一八は、まさに幇間の面目躍如といったところ。ところがだまされたと分かってからのちは、先の陽気さからは一転、一気に負の側面へと急降下。うなぎや酒の不味さから猪口・とっくりの悪口、はては家の掃除のしかたや掛け軸の選定まで、ねちねちと嫌みをこぼします。この陰りこそ可楽師の味わいどころ。法事のために取っておいた千円札を使わざるを得ない状況など、幇間の悲しみが聴くものの胸にじわっとしみわたる一席です。

【もうひと言】
幇間（ほうかん・たいこもち）は落語ではおなじみの登場人物。きちんと芸を学んだ幇間と違って、本作の主人公、一八のような野だいこはお客に取りついてヨイショすることで日々をつなぐ、どこか哀愁をたたえた芸人です。うなぎ屋が舞台となっているのも象徴的で、ぬらぬらと話をはぐらかし、ついには逃げてしまうニセ旦那の素性を暗示しているかのようです。

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