船徳

盛夏の隅田川を舞台に、磨き抜かれた名人の十八番を

【あらすじ】
道楽が過ぎて親元を勘当され、船宿に居候している若旦那の徳さん。見るからに貧弱だが、退屈しのぎに船頭にしてくれと言い出して船宿の親方を困らせる。浅草の縁日で船頭が出払った夏の日、馴染み客が2人連れで船宿にやってきた。運悪くそこにいるのは徳さんだけ。おかみさんの心配をよそに、徳さんは客を乗せてふらふらと川へ出る。制御を失って漂流を始める船。不安に苛立つ客と、冷や汗の徳さん。果たして船は向こう岸まで無事にたどり着けるのか…。

【聴きどころ】
船上で繰り広げられる滑稽なやり取りが噺のクライマックスですが、前半の徳さんが船頭になるいきさつや、ちょい役で登場する船頭のひとりひとりにも存在感があります。考え抜かれた人物像、会話の端々ににじみ出るおかしみ、そしてさりげない情景描写の美しさは、まさに名人八代目桂文楽の真骨頂。語り継がれる、真夏の江戸の風物詩です。

【もうひと言】
この噺の原型は「お初徳兵衛浮名桟橋」という人情話。明治期の初代三遊亭圓遊が滑稽噺に改作しました。船上のドタバタの日に場面が切り替わる時、八代目桂文楽は「四万六千日、お暑いさかりでございます」の名調子で簡潔に盛夏の隅田川を連想させました。四万六千日は旧暦7月10日に催される浅草観世音菩薩の縁日で、現在の8月半ばに相当します。

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