入院

ここで焼け死んだ方がええ！

【あらすじ】
急に腹痛をうったえる男。病院に行きますが、しかし医者はなぜか病名を「言いにくい」とじらすばかり。胃ガンなのかと疑う男に医者は狂牛病、日本脳炎、マラリア、はてはエボラ出血熱までもちだして翻弄します。とりあえず検査入院となりますが、同室の男が一筋縄ではいきません。自分は交通事故で全身骨折にもかかわらず「胃炎だと信じた末があの世行き」とイヤミな川柳を披露するのでした。そんな病室に男の友人が見舞いに訪れます。これがとんだトラブルメーカーで、さんざん骨折男を苦しめます。そんなとき、突如鳴り響いた火災警報器。男と友人は「焼け死ぬよりまし」とばかり、骨折男を病室から助け出すことにしたのですが……。

【聴きどころ】
福笑師得意の一席。全編笑いどころ満載の噺ではありますが、浪速の爆笑王の名に恥じぬパワーが発揮されるのは、なんといっても骨折男を助け出すシーン。とくに非常階段の場面は、ガンガンと患者の頭を打ち付けながら一気に階段を下っていくさまに加え、踊り場で方向転換するところまでがくっきりと目に浮かぶ、福笑師渾身の描写力。まるでジェットコースタームービーのように一気呵成に聞かせます。随所に挿入されるとぼけた地口もイイ味出してます。

【もうひと言】
マクラで語られるのは時間の単位に混在する60進法と10進法の不思議。なかなか奥深い疑問ですが、ともかく時計を見ているうちに創作落語「時計に乗った少年」の突拍子もないアイデアが生まれたのだとか。とすれば師の代表作である本作「入院」も医療に対する案外まじめで深いメッセージが込められているのかも……なんてことは考えずとも、気楽にお楽しみいただける一席です。

[収録：2009年6月20日　お江戸日本橋亭（東京・三越前）]

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